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不動産取引契約の成立について [不動産関係]

不動産取引契約の成立について /

 契約の成立について、民法では次のように規定している。
① 契約の内容を示された申込みに対して、相手方が承諾したときに成立する。
② 法令に特別の定めがある場合を除き、契約書の作成その他の方式を具備する必要はない。
 つまり、契約の対象になるものが動産であるか不動産であるかを問わず、契約当事者の「意思の合致」により成立するものである。契約書を作成したり、品物や代金を授受することは必要ない。但し、法律で定められているものは、その定めによらなければならないことになる。

 ところが、不動産取引契約が動産取引契約と同じく、当事者の意思が合致すれば成立するとの考えには疑問や異論が主張されている状況にある。素直に意思の合致があれば契約は成立すると考えるのは、ごく一部の法律初心者だけであろう。
 民法制定から100年以上経過にもかかわらず、不動産取引契約は諾成契約であるとの考え方は普及しておらず、むしろ、契約書が必要とする要式契約の方向に変遷しているかのように思える。

 契約の当事者となる消費者の大方は、不動産取引契約は記名押印した契約書が完成することで契約が成立すると思っており、また、契約するには何らかの金員を支払う必要があり、支払わなければ契約できないと考えている。

 不動産取引の実務家である宅建業者の大方も、契約書を作成することにより契約が成立するとの立場で対応している。具体的には、あらかじめ契約締結日と授受する金員(手付金、前家賃等)を定めておき、契約日に契約書を作成し金員を授受することで契約が成立したこととしている。買主が契約日に金員を用意できなかったときは、用意できる日まで契約日を延期することになる。この場合、売主の宅建業者が手付金を受領することなく契約を締結することは、契約締結の誘引行為とされ禁じられている。
 媒介業者は、取引契約が成立すれば報酬を受領できることになるが、契約書の作成までは報酬請求できないと考えている。

 法曹関係者は、これらのことを無視することはできず、また、民法の規定に背くこともできず、いかにして実態に即した合理的な解釈すべきか迷っているのかもしれない。

 実務家は、今日の不動産取引実態と取引実務、一般消費者の法意識を考量すれば、不動産取引契約は、次の二つの要件が履行されることにより成立するとの扱いをしている。
①  当事者間で記名押印した契約書を作成したこと、
②  契約締結時に授受することを約定した金銭が実際に授受したこと、

その理由
① 民法の契約に関する規定は任意規定である。契約自由の原則により、当事者間で契約書を作成することにより契約が成立する旨の合意は許される。

② 一般消費者(国民の大方)の認識として、不動産取引は、契約書を作成するより以前に契約締結したと認識されることはない。契約当事者の記名押印した契約書の完成により契約が成立すると認識されている。実務においても、あらかじめ契約締結日を定め、その当日に契約書に署名捺印し、手付金を授受することにより契約が成立するとの扱いをしている。

③一般消費者の認識として、契約締結時にはそれ相応の金員の支払いしなければ契約締結できないと認識されている。売買であれば手付金、賃貸であれば前家賃等で、これを用意できないときは契約日を延期しすることになる。

④ 一般的な不動産取引には宅建業者が関与しているのが現状であり、宅建業者が関与するときは、買主の購入意思が固まってから、宅建業者から買主に重要事項説明がなされる。その後に契約書を作成して、契約当事者に記名押印を求め、完成した契約書を契約当事者に交付することが宅建業者の義務である。
 (なお、宅建業者が重要事項説明する時点で、売主の売却する意思は確定しており、買主の購入意思も確定していることが多い)

⑤ 一般消費者にとって、不動産は価格や面積に関わらず、古来から最も重要で大切な財産であると認識されている。また、公的にも登記制度や固定資産税制度により、このことを裏付けされているため、不動産取引はより慎重に行われるべきだと認識され、不動産取引においては契約書が必要不可欠なものと思われている。

⑥ 一般消費者が、不動産売買するときは大金の借財(住宅ローンなど)しなければならない。賃貸マンションの賃貸借契約のときでも数十万円用意し、さらに継続的契約関係についての連帯保証人を設定しなければならないのが実態である。このことから契約行為に厳格性を持たせるべきである。

⑦ 従前から不動産取引で契約書を作成しない事例は、親族間などで行われる使用貸借などのごく限られた場合だけであり、一般的な不動産取引では契約書を作成することが当然であると考えられている。むしろ、取引に伴う所有権移転登記などの手続きするとき契約書を利用するので、契約書を作成しない不動産取引は考えられない。

 最近の不動産取引を考察すると、契約書の作成により契約が成立すると解釈するほうが実際の取引に合致しており実践的で、かつ、消費者の感情に合致する。このため、実務においては要式契約であると位置づける考え方が普及しているのは当然の成り行きであろう。
 なお、近年制定された定期借家契約や定期借地契約は要式契約であることが明記されている。

 裁判事例において、不動産取引契約における意思の合致は、単なる意思の合致では足りず、「本当に意思の合致」があったことが必要であるとし、個々の事例ごとに契約内容についての理解と当事者の行為や態度をも考量して判断するように思われる。このため、買付証明書や売渡証明書により、売主と買主とで売買したいことの意思が明確に表示され合致していても、そのことだけでは本当に意思の合致があったとは認めることができないと考えているのかもしれない。
 契約の内容を理解した上での意思の合致が必要であるとすれば、一般消費者の場合には、重要事項説明がなされた後に意思合致する必要があることになる。それなら、契約書の作成により成立するとした方がすっきりすると思う。


参考
不動産取引契約も諾成契約であるとした理由の一つとして、民法制定当時における全国における平均識字率の低さが影響しているものと考えられる。明治15年の文部省年報第10の滋賀県年報によれば、自己の姓名すら書けない者が、男性で約9%、女性で約50%、全体では約30%いた(管内人民教育有無一覧表)。なお、大都市での識字率は非常に高かったようです。

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