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不動産売買契約における履行の着手 [不動産関係]

不動産売買契約における履行の着手 

不動産売買契約を締結した買主が、手付金を放棄して売買契約を解除できる期間は、契約の相手である売主が「契約の履行に着手」するまでの間に限定されている。この「契約の履行に着手」とは何かと一言でいえば「契約による給付義務の一部でも履行すること、または、一部の履行に着手する」ことである。

建売住宅の売買において、売主の宅建業者が負うことになる売買契約による給付は何かといえば、「完成した住宅」及び土地の同時引渡である。このため、売主の宅建業者は、住宅が完成するまでは給付できる状態にないため、契約の履行に着手することはできない(なお、請負契約の場合であれば、建設工事に着工すれば履行の着手になる)。

建売住宅の売買契約を締結する時点での住宅の状態は次のいずれかであるが、いずれの場合でも、売買契約による売主から買主への給付は「完成した住宅」及び「土地」の同時引渡しであり、宅建業者が関与する不動産取引においては、不動産の引渡日(所有権移転登記日)を約定するので、特別の事情がない限り、約定した不動産の引渡日が履行日になる。なお、マンションや戸建住宅の未完成物件(青田売り)の売買契約において、オプション契約(追加工事契約)を締結したときも、オプション契約は売買契約に吸収されるので、住宅本体の売買契約による引渡日が契約の履行の着手日となる。
 ①住宅が既に完成している、
 ②住宅を建築している途中である、
 ③土地が更地状態で住宅建設に全く着工していない。

このため、住宅引渡し日が定められているにもかかわらず、売主宅建業者が引渡日よりも以前に契約の履行に着手したと主張するためには、契約の履行に着手した事実があり、かつ、履行日前に着手したことについて合理的な理由が必要である。また、このことについて事前に買主の同意が必要であると思われる。売買契約の相手方が知らない間に契約の履行に着手したとしても、このことは、売主である宅建業者の「給付義務に係る期限の利益の放棄」として扱うべきであろう。

裁判事例について
契約の履行の着手とは、「債務の内容たる給付の実行に着手すること。客観的に外部から認識できるような 形で履行行為の一部をなし、または、履行を提供するために欠く事のできない前提行為をした場合」であるとされている。つまり、原則は「相手方が契約で定めた給付義務の履行に着手したかどうか」で判断する。しかし、このことのみでは公正な利害を調整できない場合は「客観的に外部から認識できるような形で履行行為の一部をなし、または、履行を提供するために欠く事のできない前提行為をしたかどうか」を考慮して調整する。但し「準備行為」は考慮しないとされている。この考え方は、裁判における個々の紛争解決手段としては容認されている。

① 第三者所有の不動産の売買契約において、売主が右不動産を買主に譲渡する前提として当該不動産につき所有権を取得し、また、自己名義の所有権取得登記を得た場合(最判昭40.11.24)。
② 家屋の買主が約定の明渡期限後売主に対ししばしば明瞭を求め、かつ売主が明渡をすればいつでも約定代金の支払いをなしうべき状態にあったときは、現実に右代金の提供をしなくても、(最判昭26.11.15)。
③ 農地の売買において、売主・買主が連署の上、許可申請書を知事宛に提供したときは、売主及び買主は履行に着手したものといえる(最判昭43.6.21)。
 
しかし、不動産取引において、一般論として前提行為を安易に認めると、前提行為は客観的に外部から認識できないこともあり、また、契約の相手方がいつ前提行為するかの時期を予想することが困難であるため、手付放棄による解除がいつまで可能かの予測ができにくい事態になる。さらに、詐欺的取引する宅地建物取引業者や悪質宅地建物取引業者は、契約の解除を妨害するために前提行為を先行することも起こりえる(宅建業法47条の2)。また、宅地建物取引業者の代理人となる弁護士が、不動産取引の紛争の相手(買主等、素人)に対して、契約の履行に着手について準備行為や前提行為を混同した主張することが頻繁にある。このことが民法制定から100年を経過した今日でも、個々の不動産売買契約において手付放棄で解約できる期限についての紛争が絶えない。情けない状況にある。

これらのことから、宅地建物取引業者が関与する不動産取引においては、前提行為を考量すべきではないと考える。

 表示登記
表示登記は不動産登記法による建築主(建築確認の申請者である売主)に対して、不動産登記法により課せられている義務であり、不動産売買契約に基づく売主の義務ではないから履行の着手にならない。例え、建築確認申請を買主名義で申請したり(ただし、契約締結時期の制限の問題が生じる)、売主から買主へ建築確認申請者の地位の譲渡等の手法により、建売住宅の表示登記を買主名義に登記したとしても、表示登記は本来の建築確認申請者である売主に対する不動産登記法による義務であり、売買契約による義務ではないから、不動産売買契約の履行にはならない。

建築工事やオプション契約の着手
マンションや建売住宅の売買契約は、未完成物件(青田売り)の売買であっても請負契約ではなく売買契約である。このため、建築工事やオプション工事などに着手したとしても売買契約に基づく義務には該当しないため、売買契約を履行するための準備行為に過ぎず(但し、建築工事やオプション契約の履行の着手には該当することになる)、売買契約の履行に着手したことにはならない。

住宅ローンの融資内定
売買代金の支払いのための買主側の資金準備行為であり、住宅ローンの借入は、買主の代金支払いのための準備行為で、売買契約による売主の義務ではないため、売買契約の履行の着手に該当しない。

◆民法 第557条(手付)
1項 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
2項 第五百四十五条第三項の規定は、前項の場合には、適用しない。


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